「根っから、あんたに合わせてくれてんじゃないの」
「え?」
「行き先が一緒なだけ。それを装った以上、それ以外のアクションを取れば気取られる。だから、ただ黙々とあんたとエア二人三脚しながら、あんたの状態を見極めて、無理が来ないように合わせてくれたんじゃんよ。あんた、さぞかし、のほほんとついてこれたでしょうね。その人から恩着せがましいこともされちゃいないし、自ら恩に着なきゃならないようなこともされちゃいないんだから。主観的には」
一拍。
ばっと紫乃は座席シートから身を起こした。あわわわ、と片手を口許に突っ込みながら、青い顔を押さえて、もう片手で鞄の中を探る。
.
「お、お礼の電話―――!」
「やめときな」
「どうしてっ!?」
「あんたね。あたしの話、ちゃんと聞いてたの? あの人は、あんたにそういったのをさせないために、こうしたんだよ。イイ女なら、男のキザを棒に振る馬鹿しない」
「うー!」
行き場をなくし、だからこそ到底消化もままならずに喉元までこみ上げてきた熱を、紫乃は破裂させるしかなかった。
「じゃーお姉ちゃんだって、わたしにそんなこと教えないでよっ!」
「八つ当たりすんじゃないの。お仕置きに、無駄に高速で急カーブ曲がってもいいんだけど? 八兆坂の雌豹の異名、味わってみる? バイクに二ケツじゃないから、真価にゃ程遠いけど」
「やめてよ! わたし、お酒飲んだの久しぶりなんだから! 吐いたらどうするの!?」
「死刑に処します。ハートから。三歳の思い出からいきますと、昼寝してるお父さんの耳に柿ピーの柿を詰め、目覚めた父はなんか耳の穴がカラいカユいと七転八倒―――」
「やめて! まだ吐いてないし吐かないしからやめて!」
「それではお次は小一の時、わたしがよーやくくれてやったでっかいビー玉を宝物に肌身離さず洋式便所まで持って入った挙句、大も小も用を足した便器の中に落としてさあ大変。母に泣き付くも、ゴム手袋をして救出を画策した母の指は逆にブツを貫通し、ビー玉はカラコロと下水管へ―――」
嘔吐もしなかったのに、ハートだけは容赦なく死刑に処された。
[0回]
PR