「ううん。行き先がおんなじだっただけ」
「ふーん。合コンで酒飲まない野郎なんて珍しいね」
「え?」
本格的に意識を取り戻して、疑りながら、振り返らざるを得ない。現実的には隣席の姉をだが、心の中では、憶えている麻祈を。
とするとやはり、そう言うしかない。
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「かなりたくさん飲んでたけど」
「だったら、なんでこんな時間の駅に用があんのよ? もうバスも電車もないんだから。駅まわりの駐車場に停めといた自分の車で帰るためしかないでしょ? フツー」
「これから代行の人をつかまえるんじゃない?」
「まさか。だったら、合コンの店を出る前に連絡済ませて落ち合うか、ナンパしてきた代行業者をひっかけて連れてくるっての。わざわざここまでやってきてから、連絡して、そいつを待つ? 無い無い。あんただって待たずに済ませるために、店を出る前に、わたしにメールしてきたくせに」
「それは……そうだけど」
さばさばと追い詰めてくる姉に、紫乃は粘った。
「タクシー拾うためとか?」
「そんなもん、駅に来るまでの間にいくらでも拾えるでしょ」
「シメのラーメン食べに来たとか?」
「体格からして縁が無さげ」
確かに合コンの席でも、食欲がある風ではなかった。ずらりと食べ残したまま、それに取っ付かず席を立つ麻祈の姿を思い出す。皿に取った食事を残すなど坂田家では言語道断の悪行と見なされているので、いっそすがすがしいくらいの残飯の山脈が記憶に残っていたのだ。あの時は、酒で満腹となったのかくらいにしか思っていなかったのだが、だとしたらなおのことこれから麺類を平らげる余地など無いだろう。
ふってわいた混乱に目を白黒させる紫乃に、姉が横目を触れさせてきた。嘆息する。
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