. どこかせいせいしながら、紫乃は姉の車の助手席に乗り込んだ。
「ありがと。お姉ちゃん」
「ん。シートベルトすんのよ。睡魔にシャーマニズムされてちゃ、安全運転できっか分かんないから」
寝巻きのジャージに玄関サンダルという格好のみならず、しょぼつかせた眼に正直に睡眠欲を自白させながら、姉がぼやいてくる。助手席の日差し避けにぶらさがる交通安全お守りは、相変わらず日焼けしすぎて茶ばんだままだ……一年ごとに変えないとご利益が無いと口酸っぱく言っているのに、一向に交換してくれない。どころの話ではない。シートベルトやらエアバックやらなんちゃらシステムやら最新鋭の安全機構にガードされているんだから、そちらのメンテナンスを手塩にかける方が、布と紙のポチ袋をせっせと取り替えるよか金額相応のご利益があるとか言ってのける。罰当たりである。元日の初詣さえ、エア賽銭で済ませていたくらいだ。神社に住んでる神主さんへの給料として払ってあげてと懇願したら、それもそうだと社会人になってから五百円玉に替わった。罰当たり以上に罪作りな気がした。誰への、かはよく分からないけれど。
ぶわんと、お守りが揺れた。車が前進する。
.
深夜近く。駅前とはいえ道行く人はまばらで、車道にはとんでもない改造車ものっぴきならない事件もなく、見るものなど、そのお守りくらいしかない―――だから暇つぶしを試みようとも、そんな思い出しか爪繰れない。右に曲がり、左に折れて、赤信号で停車する都度発生する慣性のまま、揺り籠の中にいるかのように眠りかけ―――
と。
「さっきの男の人。駅まで送ってくれたの?」
姉が訊いてきた。前を向いたまま。
夢現(ゆめうつつ)に、紫乃は口を開いた。
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