傲然と、問い質してくる。
「てか。あんた誰?」
「ええと。とりあえず、てっきり華蘭と並んで参上すると予想してマシタのにってエマージェンシーコールが絶えないがゆえにブル遊びに逃げかけてしまいました、そんなアナタ側でない関係者です。アナタ側の関係者な華蘭こそ、アナタの横っちょにいないのはナーゼ?」
「高ランとせんせーチョクに関係してないし、チコク待つ間にケリつけちゃった方がソッコーすっきりするし。そう思って、ちゃきちゃき来ちゃいました。ねー? そっちの方が到着が早かったってことは、思いはオソロですよねー? 坂田紫乃さん?」
言いながら、こちらに向けられた笑顔は、やはり作られているだけに分かりやすい。ただし、友好の念ではなく、見くびる様な底意地が。
自覚はあったのか、小杉は即座にそれを撤回した。敵視してしまったことで、紫乃が己と同格の好敵手だと認めてしまったかのような錯覚を起こしたのだろう。無表情をじわりと捩らせて、怒声を燻らせる。
「なに? 愛想よく言ってあげてんのに黙りっことか。あーもーホント嫌んなる。ちゃっちゃとケリつけて終わっちゃお。席どこ?」
「こっち」
受け答えと言うよりか、停止している紫乃に発破をかけるように呟いて、葦呼が皆を先導した。肘を解放した手でポンと軽く紫乃を叩き、発破をかけてから歩き出す。
と言っても、大股で十歩も歩かないくらいの距離だ。店は、玄関から最奥まで縦長で、店を縦左右に二分割するような形で通路が取ってあり、左半分がバーカウンター、右半分がテーブル席になっている。恐らく葦呼は、四つあるテーブル席のうち、最も奥まったそれに陣取ることを所望していたのだろうが、そこでは既に老人がひとりうたた寝をしている……いや、テーブル席はモミの木の鉢を並べた塀で区切ってあるので、こちらに背を向けて座る頭半分くらいしか視認できなかったのだけれど。孫のお下がりの小学生用通学帽子と思われる薄汚れた黄色いキャップに、首筋を日焼けから守るべく使い古した手拭いを挟みこんでいる老けこんだ様子は、外仕事を終えてから小休止を長引かせている老人だと思えた。
(巻きこんじゃうかな。ごめんなさい)
内心で詫びながら、紫乃は移動した。老人がいるテーブルの、ひとつ前のブースである。各辺にひとり……詰めるならふたり並べるサイズのテーブル席で、葦呼は玄関に向く配置の席に着いた。モミの鉢を隔てて、真後ろに老人がいる形だ。もしかして葦呼は、誰彼関係なく語気を牽制する意図で、見ず知らずの人目があると意識せざるを得ないこの喫茶店を、話し合いの場として選出したのか? 人目があり過ぎて気に掛けることもない大衆カフェでもなく、人目の出入りを一切許さないカラオケボックスでもなく……
テーブルには、ティーカップとティーポットが置いてあった。品揃いからして、ふたり分の紅茶だろう。葦呼が座った席に、使い終えたカップが置かれている……もうひとつのカップは彼女の左手、壁側の席だ。そちらは伏せてあり、未使用の状態である。先程の葦呼のせりふを思い出せば、自然とそこに座らざるを得ない。
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