. 気象庁がどんな基準で梅雨前線というものを判断しているのか知ったことではないが、じっとりねっとりむっとりした空気がこんな時間まで退いていかないのだから、もう今夜から梅雨でいい。梅雨で行こう。投げ槍に思う。思ってから凹む。
(むっとりって何……?)
脳がカビている証拠ですよと暗なる啓示を受けたようで、紫乃はうんざりと肩を落とした。毎年のことだが、お風呂から上がったのに清涼感が今ひとつとなるのだけは戴けない。梅雨になってしまったらなってしまったで、カタツムリや紫陽花や小学生の黄色い雨具の集団登校や、好きな光景はあるのだけれど、夜の寝室にはどれもないし。
(あったら困るけどね。特に集団登校。多分土足。きっと土足)
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とりあえず理性的だという建前として、紫乃は思いつきに断っておいた。カーペットへのドロ長靴の乱打は困る。文句無しに困る。まあそれはともかく。
(もうエアコンの時期かぁ。えっと、除湿したいけど、クーラーより除湿機能の方がお金かかるんだっけ? でもそれって、昔のやつだけだっけ?)
こんな時こそ、携帯電話からの検索だ。ベッドに腰掛けて、紫乃はエアコンのリモコンとそれを、右手に取り替えた。そこで液晶画面に、着信履歴をみつける。高藤華蘭(たかとうからん)と出ていた。
とりあえずエアコンで涼気を効かせてから―――クーラーにしておいた―――、馴染みのそれに掛け直す。
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