「なんで知ってんの? しかも名前。苗字じゃなくて」
「苗字は……忘れちゃったから」
「は?」
それから、きっかり、七秒。
それが、始まる。
「―――ちょっとちょっとちょっとちょっと! 紫乃がイイカンジの人ってそいつなの!? そうよね名前で呼んでて苗字忘れるとかそーいったアレだよね!! そっちはもうそんな仲なの!? センセーとばしてアサキサンな仲なの!? ええ!?」
あらん限りの鬼気を焚いた声に、危局を招き入れてしまったことを紫乃が悟った頃には、もう遅かった。華蘭は爆音のような声量で、己の中で構築された設定と脚本と価値判断に準じた怒罵をぶちまけていく。
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「さいってい!! フタマタじゃん!! いやあぁぁぁあアア最低えエェエ!!」
「さ、」
「騙されてるよ紫乃そのクソ医者にいいようにされてるって! まさかもうヤられてないでしょうね!? 感極まってナマのブツに初夜くれてやってないよねっ!!」
「―――さ―――」
己の呟きすら、どこか遠く。
紫乃は、聞いていた。内側の反響音を。
(さい、てい、なのは―――)
そして、親友としての義憤に駆られる以上に、思わず手に入れた酸鼻で淫靡な妙味も馨(かぐわ)しい醜聞にときめいて耽溺していく華蘭の興奮を聞いていた。
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