「マジで? てことは、なになになに? 紫乃もイイカンジの人いたの?」
「うーん。―――気に、なってる。そんな人なら」
「きゃああぁぁあ!」
黄色い悲鳴に聴神経をぶち抜かれ、紫乃は携帯電話から頭をのけ反らせた。手の方を離したって構わないはずなのに、なんでこんな時はいつも頭部なんだろうか? 衝撃波にふらつく脳裏でいらないことを考えているうちも、華蘭の嬌声は止まらない。雪だるま式どころか、雪山の雪崩を思わせる怒涛の加速で増していく。
「ついについに!? あのまぐれ処女(バージン)純情派な紫乃がついに!? いやっはー! たかが合コンで二組もイイのが成立なんて、奇っ跡っ的イ!!」
「二組?」
「そ! もー、由紀那が大絶賛してんのよう。せんせーって人をさぁ」
息が、止まった。
.
そして、吐き出すのを再開しながら。我知らず、紫乃はへらりと笑っていた。純然たる反射だった―――ただ、なににどう反射しているのか、それは分からない。面白い時には笑う。いじめられていた時だって笑えていた。だったら、今のこれは、なんだ? ……
「合コンの最後にダメ元でアタックしたら、相手も悪い気してないみたいって、次の日にカフェってる時に相談受けて。もーどんどん押しちゃえってアドバイスしたの。そしたら、なんと! 買い物デートも付き合ってくれちゃって、今度ランチでも行こっかって流れらしくってさ。忙しくってまだ無理っぽいんだけど、医者と付き合うならこれくらい許してあげなくっちゃねって、ゆっきーなったらお惚気(のろけ)―――そうそう。そうなのそうだった。医者なんだよその人。これまた、少女漫画から飛び出てきたような粒選りのイケメンなんだって! ちょっと天然はいってるとこがまた一興の、ケルナルのトヒヤっぽい、名家生まれな帰国子女で大学トップ卒の若手ドクター! その名も、」
「麻祈さん」
思わず、口に出していた。誰にも言われたくなかった。彼の名前を。
待っていたのは、沈黙だった。まるでその静けさに忍び込むように、続行された華蘭の語気は軽率さを失っていた。
[0回]
PR