「身長もそこそこで、だからこそスタイルがスラッとしてると見栄えするっていうか」
「内輪ではそうかもしれませんが、日本人なんか大陸(そと)じゃ全員ちんちくりんですよ。体重だって、持病があるから肥えると都合が悪いだけで」
「持病?」
しまった。
狼狽した視線が、橋元からぶれた。引き攣りかけた表情筋だけは、理知の力で組み伏せる……説き伏せる。問題ない。こんなことに、問題があるとでも? 持病なんて、ある・なしの尺度からしたら、全人類の半数はありってなもんだろう? ―――
だからこそ、こう答えてしまっていた。
「……はい。股関節が」
「ああ。右。それで歩き方に特徴あるんだ。はいはい」
迂闊だった。
ばっと、ずれていた凝視を、橋元に引き戻してしまう。それだって迂闊だったが、仕方なかった。愕然としていたのだから。
当の橋元は、そんな麻祈を衒いなく見返してくるだけだ。敢えて言うなら世間知らずに世間話をするという先輩風を帯びた横柄さがあるだけで、そしてそれは、今だからそうだというわけでもなかった。初対面の時から、彼のキャラクターは続いている。今更、それを痛感する。
みっともなく、呟きを垂れてしまっていた。糞のように。
「あります、か?」
「うん?」
「その。特徴」
「うん。ちょくちょくね。体調悪いんかなって時に右足からばっかり蹴躓きかけてるし。院内履きにしてるその革靴、後ろから見ると踵の減りに左右差あるから。浅いの? 生まれつき? 男なのに珍しいねぇ。年中ずっと長袖のユニフォームを選んでるのも、持病関係のなにか?」
「―――ですかもね」
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