「わたしも、こないだ健診でひっかかってさぁ。肝機能。自分の名前で、再・精密検査依頼書に経過観察ってつけて、院内の健診センターに返送しちゃったよ。医者の不養生が身にしみるわぁ」
もう話題の融通にも飽きたのか、橋元はあくびして背伸びをした。それはまさしく日向ぼっこするのに退屈したどら猫を思わせる仕草で、まさしくどら猫が家人をふいっと無視するように、急にとりとめのないことを言ってくる。
「にしても。段先生って、嘘もつかないけど本当のことも言わない奴だなって思ってたら、ちゃんと本音が言えるじゃないの。自分のこと、俺とか言えちゃうんじゃん。驚いた。今度いっそ、飲みにでも行かない? 佐藤先生だって、野郎の二人連れなら、夜遊びしてもブーイングしないっしょ。なんなら彼女も、一緒に食ってくれちゃってオッケーよん。まあ、さんぴーって意味なら勘弁だけど」
歯に衣着せず気ままに、だらしなく涙で曇らせた目線を寄越してくる橋元。
やはり彼には、どれもこれも“どこまでも”、世間話でしかないようで。
麻祈は―――
あとひとつなにかあったら乱交の方を快諾してやろうかなと血迷いながら。
何事も無かったので。
正気を保ったまま、のろく、低く、吠えるしかなかった。
「……橋元先生」
「はい?」
「今の話。全部忘れてください。どれもこれも、嘘でも本当でもない冗句なので」
「へえ」
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