.思い出すのは、古巣ではありふれているジョークのひとつ。
「やあ少年。その新聞を一部もらおうか。今日なにか新しい事件は起こったかい?」
「無いね。昨日と同じ不幸が、昨日と違う人間に起きただけ」
そう。そうして往々にしてありふれた不幸のひとつとして、連綿と不運が煮詰まるパターンというものもまた存在する。
それは、七転八倒とか泣きっ面に蜂とか雨は決まって土砂降り(When it rains, it pours.)とか、西洋東洋ところ構わず慣用句が出来上がるような、ありふれた凶事である。タンスの角に痛打した小指に思わず屈んだはずみでタンス本体に眉間を打ち付けるという短期決戦から、旦那の鞄からブラジャーが出てきて浮気を問い質したところ「それは俺のだ」と告白されるというフォーエバー冷戦までありはすれど、同じようなものと群れ集うのは羽毛を生やした鳥だろうが悪い運気だろうが、似たり寄ったりするものだ。
―――とのセオリーからでは必ずしもないにせよ、麻祈がらみの流言飛語に佐藤がどこまでとばっちりを受けたものか、麻祈は根暗に期待を膨らませていた。先日の昼、情報通の橋元にわざわざ出鱈目を吹きこんだのも、佐藤のデマを煽るためである。捨て鉢というやつだ。死なば諸共とも言う。もとはと言えば、早漏だどうだという噂の尾鰭は佐藤が煽ったがゆえに生じた件(くだり)であるのだから、麻祈が煽ぎ返した火の粉が飛んで行くうちに火ダルマと化していたところで、仕返し的には分相応である。それ見たことか。おあつらえ向きだ。
(飛んでくる頃にゃ、火の粉が灰になってりゃいいなぁ。そしたらお前は灰かぶり(シンデレラ)だ。だろ? 佐藤)
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