.日本酒は、例えるなら、道路で点滅している赤信号だ……まだいける・ほらいけると図に乗った歩行者には、まず間違いなくアウトが待っている。遺伝子検査も誤解するタフな解毒能など、見た目からして真っ赤な佐藤に期待するべくもない。だというのに、呼気が帯びた酒気は濃厚だ―――肺から体外に放出される段階まで、全身にアルコールが浸透してしまっているのだ。それはもう、濃厚に。
血の気がひく。もろとも、流暢な懐柔を日本語で練るゆとりまで失せてしまう。それでも、佐藤の暴飲は宥めすかさなければ止まりそうにない。とりあえず、こめかみの横まで挙げた両手を開いて、害意のない旨を示す。
「ちょ、うあ、おいおいおい(Whoa, whoa, whoa,)、クールにいこうや(Stay dench!)。 どこ吹く風って調子になれって(Do be cool,calm,and collected!)」
「しゃらくせえ!(Gah! Bite me!) 飲んでハイなんだよ!(Just got crunk!) ノってんだよ!(Cooking with gas!)」
佐藤は、聞いていない。いや、聞いているからこそ、大声でごねていると言おうか。手足もばたばたさせている。景気づけのつもりらしい。
前途多難である。
「ヴう(Ugh)……やんなってきた(You make me cringe)……」
「Whatever! Get off my nuts!」
「オイイィィいい加減よして(Gimmi a break!)!」
めげかけたところにぶちまけられた弩級の卑語に、麻祈は顔を跳ね上げた。勢いのまま、がっと席から立ち上がって、テーブル向こうにある佐藤の両肩を正面から掴む。さがっていた筈の血の気が一気に噴き上がって、それに劈かれた背筋が、熱いくせして総毛立っていた。
「ドタマ冷やせ!(Just Chill out!) 意味分かってんのかテメェ(You know what I mean!?)!? おま(You)―――って、えエと! 今! お前は『だからなんだ、俺がトチ狂う邪魔すんな!』と言ったつもりだろうけど実のところ『いいから俺のイチモツをよがらせろ!』っつったんだぞ今コルァ!」
「ぶひゃらはははは!(Bwahahahahaha!)」
佐藤は馬鹿ウケして、麻祈の叱責を笑い飛ばした。
だけなら良かったものを、徳利を放り出した両手で麻祈のベルトに掴みかかってくる。けたけたと笑い転げながら。
「Get off!? Woody!? Jerk off!? Wank! Spark the monkey! Don't be jelly! Ditto let's do it!」
どうやら、ズボンを剥ぐつもりらしい。
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