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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.    道路の路肩に錆びた標柱を突っ立てただけのバス停留所に到着してから、徒歩もだんまりも終わった。話題を出してくれたのはバスが到着するまでの坂田なりの気遣いだったのだろうが、余計なことを喋る都度、気が滅入る。受け取る余裕が懐に無いことを謝罪するしかなかった。

 バスが到着すると、そのどれもが終わった。

 帰宅する。いつものようにひとりで、ただし今は古傷を疼かせながら。

 そして今日のそれは、足の付け根や上半身の痛痒ではなかった。

 過去からの声音に、鼓膜を炙られていた。

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「俺のことは、別に構わなくていいですから。それより坂田さん、怪我とかしませんでした?」

「し、てません」

「ならよかった」

 ほっと吐きかけた呼気が、喉に詰まる。坂田が、今も息を呑んだままだったから。

 ただただ平身低頭するしかない。

「すみません。すみませんでした。ほんと。おっかしいなぁホント。見当識障害? たったの焼酎一杯で酔いどれ幻視(Pink elephants)がお出ましなんて、いっくら疲れてるにしても、俺のくせして、どうしてしまったんだか。トシですかねぇ。はは。あはは」

 やっとこさ、ぎくしゃくと坂田が口まわりを引き攣らせた。道化を憐れんでくれたように思えた。

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.   たまらず、そのまま夜道を歩き出す。

 軽い足音が、ついてきた。

「……麻祈さん、親指のそこ、汚れて―――」

 そうして、麻祈に触れてきたのは、声だけではなかった。

 後ろから。指が。たくさん。この素手に。

 “このあとのことを知っている”。

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,   見るだに、坂田が慌て出す。巣穴から出たプレーリードックを思わせる様子で、ぴんとした背に自らせっつかれたように目をしばたいていた。なにより、野生動物のように瞳が正直だ。割り感がどうかしたのかと、魂胆から窺っている。だけ。

 だからこそ苛立ちが加速する。

「俺が出して当然だとは思わなかったんですか?」

「思いませんよ! そんな!」

 坂田は声を跳ねさせて、実際につま先でも伸びあがってみせた。

「わたしは麻祈さんと食事を楽しみに来たんです。麻祈さんに食事を奢ってもらいに来たわけじゃありません」

 言ってくる。まるで、佐藤のようなことを。佐藤でもないくせして。

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「……会計をと、お願いしたはずですが」

「したんです、けど」

「した? どうして俺がサインしに行きもしないで、カード決済が済むんです?」

 馬鹿げた言い分に、正論を突き込む。

 麻祈の財布を両手で胸元に握りしめて、坂田は躊躇いながらもこちらにやってきた。無駄に肩掛け鞄をさすったりしながら、もじもじと打ち明け始める。

「あの。すいません。カードじゃなくて、勝手に……この中の、五千円で」

「は?」

「ごめんなさい。でもあの、篠葉さんが、なんだかカードの機械もおかしいからって言うし。わたし、人様のそういうの、扱ったことがなくて、こわくて。篠葉さんに任せてたら、こうするのが一番だって、麻祈さんの財布を拝借して、会計を済ませてくれたものですから……あの、これ、おつりです。小銭入れ、このお財布と別ですよね? 使った感じなかったので」

 麻祈の財布を持った手を胸倉から下ろすと、その下から、もう片手の握りこぶしが出てきた。どうやら後者には、釣銭を保持しているらしい。

 疑念はますます深まるしかない。カード決済で釣は出ない。のみならず、算数からしておかしかった。呻く。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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