. 桜獅郎・麻祈・羽歩の両親は生みの親であり、かつ両者どちらとも日本人であるが、出産はすべて欧米で行われた。つまり、日本島のみで地産地消を繰り返す生涯と境遇を疑いすらしないオリエンタル、いわば“生粋ジャップ”―――これを蔑称だと目くじらを立てるなら、純血（The elect）でも血統書つき（An elite）でもお気に召すまま自称したまえ、諸君―――より格段に有利にそちらで生活していける地盤があったわけで、これを最活用できる初日こそが真の意味での自分の誕生日となると彼女は盲信していた。死神以外の神は人に応えずとも、自身の能力は努力に応え、応えた自身にこそ世界が応じると信じていた。現実的な彼氏はひとりも作らず八人のペンフレンドを掛け持ちして人脈とホームステイ先を着々と増やし、英語力ならびに英語圏で生活するための知識と智慧と経験を麻祈から一滴残らずカツアゲし、あちらへの入学手続きと金の工面だけを実父に頼り、高校卒業と同時に単身欧米へ去った。
そうして渡米するまでの数週は、麻祈にとっても忘れがたい。
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まず、どこからともなく計画が漏洩した。漏洩元は、羽歩の同級生だと見て疑いない。実妹はことごとく彼女から学期試験後の解答用紙を買収し、それを祖父へ代理提出することで、己の実力を欺瞞していたのだから。祖父は己の安寧のために、愚劣で蒙昧過ぎる未成熟な女を欲していた。だからこそ、同級生から、やっかみが出なければ―――誤答から設問を逆順に解くのって楽しいんだよねって。なにそれ？ デキ良くって留学しちゃうのはいいよね。こっちはセンター試験にさえ困ってんのに―――祖父は、解答用紙の筆跡が、冷蔵庫に貼られた買い物メモのそれと異なることにさえ気付かずに済んだはずだ。それこそ、没する瞬間でさえ。
生憎没年まで程遠い祖父は、事が発覚した直後に羽歩の学習机と私物と畳を窓から投げ出した。桜獅郎は、それを捨ててこいとの激発に唯々諾々と従って、ひとり暮らし中の麻祈の1LDK（ワンエルディーケイ）に捨てて行った。畳と学習机本体は、ゴミ集積場へと廃棄場所を移した。そうさせたから空いたスペースに、妹は座った。
数日を同棲した。だからどうということもなかったが。
[1回]
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