. 麻祈は、日本の若い女とは、毛皮のコートよりナマ肌を着飾りたがる生き物なのだと理解していた―――だからこそ、寒い寒いと訴えるにもかかわらず、ミニスカートの足はあんなにも威風堂々と街を闊歩して行くのだろう、と。それゆえ、おおよその生傷が癒えた妹が出国の日、高校の制服を禁欲的に着こなしていたことに度肝を抜かれた。そんな次兄へ、彼女は破顔する。そして言う。
「ざまあみろ」
数日以上、魘(うな)された。
もう随分と前のことなのに、あの時の光景は網膜に焼きついて離れない。だからこそ、麻祈は思う。ゆっきーな(これぞ自称)を目の前に、心底それを思う。
(似てねー)
待ち合わせたショッピングモール内にあるフードコートにて、円テーブルを挟んで向かいに腰掛けている小杉―――は苗字であり、名が由紀那―――を観察し終え、麻祈はこっそりとひとりごちた。
似ていない。どこもかしこも似ていない。“ゆゆ”のイメージなどメールを重ねていくうちにすっかり淘汰されていると思っていたが、ここまでまったくカケラも似ていないとなると、逆に実妹との共通点を探そうとする自分がいる。にしても、
(無ぇー)
無い。いっさい無い。絵に描いたように乱れひとつ無い髪型に、実際なにか塗ってどんだけか描いてあるのだろう顔面に、なにをどれだけ細工することでどのような気が晴れたのか想像もつかない服装で、なにをどれだけ細工しているのか想像するのはやめときたまえと本能が警鐘をかき鳴らしてくるボディラインを包んでいる小杉を凝視したところで、重複点はどこにもない。妹は化粧などしていなかった。少なくとも顔面と首の色は食い違っていなかった。いつだって古着―――と称しては強奪した麻祈の日本用衣服―――を穴が開くまで着まわして、髪さえ自分で散髪することで、全ての経費を文通もろもろの自己投資資本へと流用していた。表情だって、目前でこんなにこにこと愛想良くしていたことなどあるか? あったかもしれない。百歩譲って、あったとしよう。ただし、白っぽく泡立ったコーヒーが入った紙カップを、斬新なギターピックじみた爪を生やした十本指に包んでいたことは絶対に無い。
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