. 小杉が麻祈の前に取り出して検分を求めてくるものは、奇妙な洋服から奇天烈な雑貨にいたるまで節操なかったが、色合いやら嗜好やらから推測するに、どうにも男性教授への贈答品選びだとは思えない。少なくとも麻祈だったら、ショッキングピンクと紫のマダラをした短パンや大臼歯型小物入れ(歯の窪みと、虫歯菌を模した数々のでっぱりに指輪などをひっかけるらしい)を教え子からプレゼントされたところで、エキセントリックな嫌がらせとしか思えない。
(自分のものを買いたいのか? だったら、なんでまた俺をつき合わせるんだ?)
非効率的にも程がある。
自分が買いたい物を把握しているのは当人だけだし、だとしたら当人がそこへ向かって直行すれば済む話だ。車椅子でも押してくれというなら話は分かるが、小杉はやせ細っているとはいえ、五体満足である。知性も教養も万人平均で、その発揮を阻害する因子すらどこにも見当たらない。まったくもって要領を得ない話だ。としても、
(俺が気に留めていなかったから覚えていないだけで、彼女はちゃんと話していたのかもしれないしな……)
となると、やはり麻祈の自業自得である。今更なにがしかを問うて、小杉を不愉快にさせるわけには行かない。
(どーせ今日の予定として残ってるのは風呂だけなんだ。付き合えばいい)
と、こっそり肩を竦める。そして小一時間が過ぎた。小杉は服をひと揃い購入したらしい。
.
夕食も誘われたが、小杉がメールに添付してきた朝食の風景を思い出すほどに、悶死した自分を被写体とした検死写真しか脳裏にあぶり出されてこなかったので―――無性にカスタードクリームにバナナをディップして食べたい衝動に負けることもあるが、主として自分は辛党だ―――、綿棒の殺し屋に転職前の探偵も招聘していない今は首を縦に振るなど言語道断であり、麻祈はありとあらゆる表現を用いて申し出を辞退した。ありがとうございます、だからこそ、ごめん……やめてくださいって、そうじゃなくって……本当に残念ですけど……いつか埋め合わせ出来たら……
「それ、ほんと?」
「本当ですとも」
作り笑いをキメつつ小杉へと告げてから、麻祈は愕然とした。なにを言いやがった。俺。
保険として、付け加えておく。
「機会さえあれば」
絶対にあるはずがない。確信しながら、麻祈は言い逃れた。
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