.その居酒屋での一件以来、小杉からも坂田からも連絡は途絶えた。佐藤は言う。
「位置について(オン・ユア・マーク)状態だからだよ」
それを続ける。
「走り出すに値する切っ掛けを、待たされてる―――つっても、派手カラフルな美女は華蘭が手綱を開放してくれるのを、紫乃の場合はあたしが手を引っ張ってってくれるのをスタンバってるって感じ。今、華蘭から手を放されると、あたしも紫乃もあんたも猛犬に蹴散らされるだろうね。ただ、華蘭はあたしとも紫乃とも友達だから、それを食い止めてくれてる。……まあ、食い止めてる役回りにわくわくしてるのも否めないとこだけど、ありがたいには違いない」
そこで挟んだ嘆息は、落胆でなく、説明のステップを示す印だった。ゆえに示し終われば、解説が次へと展開するのは目に見えていた。淡々と、惜しげもなく手の内を明かしていく。
「あんたらについて整理しよう。派手カラフルな美女にとって、段麻祈はアブラアゲで、紫乃はそれをかっ攫おうとしていたトンビ。紫乃にとって、段麻祈はアブラアゲとかどうとか以前に、自分がトンビと見なされたとこからしてついていけてない。ついでに華蘭にとっては、アブラアゲはアブラアゲかも知れないけど腐ってるっぽいそんなの食ったらエラい目に遭うってぇのってイメージ―――心の底では、エラい目が起こるかもしれない今この時こそ、野次馬的にゃあ特上のご馳走だと喝采してる。肉は腐りかけが一番旨いからね」
「ちなみに。お前にとっての俺は?」
「アサキング」
それ以上も以下もなく、佐藤はそれで終えた。
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