.佐藤は、麻祈の渋面を斟酌することもなく、ただ淡泊に強調する。
「癖毛隠しなんだから、ちゃんとつけといて。これも手拭いも、わざわざ実家の押入れから探してきたんだから」
「先に言ってくれりゃ、cap でも topper でも Chapeau でも自分で調達したっつのー」
「最後のフランス語、シャッポだからね、日本語らしく発音するなら。帽子、シャッポ。死語に近いけど。って、なに? トッパー?」
「え? あるだろトッパー(topper)。トップハット(Top hat)。ほら。黒くて。正装した手品師がウサギ出したりするアレ」
「シルクハット?」
「いやシルクハット(Silk hat)にウサギ詰めるとか、正気の沙汰かお前。とりあえず帽子屋さん泣くだろ。手品師だって泣くぞ。値段いくらすると思ってんだ? だから俺も買わん。そいつは買わん。勤務医な俺はウサギ詰めないとしても買わん。帽子屋さんに恨みも無い」
「―――じゃなくて。あのね。あんた。話戻すけど」
「ンだよ?」
「言ってくれりゃ自分で調達した? それじゃ似合うの買ってくるでしょ。あんたみたいな めんどがりんぼ、どーせ自分好みのイナセな店のイナセな店員に選ばせたやつを、まんま言い値で買っちゃうに違いないんだから。後ろ頭からバラす要素を発散したら意味ないじゃん」
「めんどがりんぼ……」
ずばり見抜かれた麻祈が二の句を継げずにいるうちに、佐藤が畳み掛けてきた。
「紫乃がもうすぐ来るだろうから、あたしは喫茶店の玄関先でそれを待つ。紫乃と合流したら、こっちの席について、華蘭と派手カラフルな美女がやってくるのをスタンバるから。動いちゃ駄目だよ」
と、言い残すだけ言い残して、回れ右をした。
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