.個人経営らしく小ぢんまりとした店の最奥にある、四人掛けテーブルの一席である。目線を上げれば窓辺に日焼けしたカーテン、窓際からは煙草の脂(やに)を絡ませた壁紙が続き、天井まで達するとそこにある木製の送風機は梅雨の湿気を相手にのろのろと無駄な攪拌を続けている。目立った装飾品は置かれていないが、あるとするならばそれはレコードや蓄音機でなく、音割れしたラジオとくたびれたポスターがおあつらえ向きだろう。まあ、そういった店なのだ―――金儲けよりも、暇の浪費を主眼とした溜まり場。それはビンテージになり損ねた古物の末路のうち、最も平和で好ましい姿だ。
佐藤に連れられて、ここに入った時を思い出す。
入口からすぐそばのカウンター席には老人が数人たむろしており、右手側の壁沿いに奥へと続くテーブル席は、どれも空いていた。テーブル席はよっつで、どれも四人掛け。備え付けられた椅子は背もたれが高く、しかもそれを頭ひとつ越える丈の針葉樹の鉢―――まさかニュータイプの盆栽ではあるまい―――の整列で、席同士を区切ってある。まるで生垣だ。この種のバリケードならば、視線は阻むが声音は筒抜けだろう。しかも、店内は薄暗い。電球は燈っていた。そういった小洒落た細工がされているものか、単に硝子玉に積った埃が照度を落としているのかは、定かでないが。
思わず、呟いていた。
「なんでこんな環境なのに、枯れもせずイキイキとした緑色しちゃってるんだ? このミニマム・クリスマスツリーども」
「店長さんがローテーション組んで、一個一個お外に出しては日向ぼっこさせてあげてるから。お店の外に似たような奴が同じだけあったでしょ?」
その日向ぼっこローテーションを助けた縁でここと懇ろになったと続けてくる佐藤のあっけらかんさに、麻祈は眉をひしゃげた。
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