「この―――人でなし!!」
 歳を食った一枚板が真っ二つに断裂しそうな勢いで、ドアの開閉が終わった。
 終幕のベルが聞こえた。事実として、ドアに取り付けられたベルが鳴っていた。カラン。空(から)ん。
 矢先。
「びっ」
 腕の中の佐藤が、ぱこっと、目ん玉と大口を開いた。
「っっっくりしたーあ。いつから家庭持ってたの? あたし」
「持ってませんすいません嘘です。すいません。すみません。済みませんので申し訳ありませんでしたと続けますから許してくださいごめんなさい。俺、ヘルペスとか唾液感染の持病ありませんので許してください。ごめんなさいごめんなサゥ『ゴメン俺マジクソすぎてごめんすっげものすっげマジでパネェくらい失礼を致しましてご寛恕くださるよう伏してお願い申しあげたく候(Sorry, Sorry I'm totally arsehole, indeed, awfully, extremely, I beg your pardon, Pardon, Je vous ai lésés,)』―――」
 ついに縦書きから横書きへと雪崩を起こした―――のみならず英語からすら脱兎しかけた―――震え声のひとつすら収められず、へなへなとその場に頽れる。腰が抜けていた。
 そのまま地べたにアヒル座りを崩してしまうと、もう頭を擡げることも出来やしない。床板が冷たい。そこに突いた掌に食い込んでくる砂利が痛い。冷たくも痛くもなかった佐藤と密着した体感が、なおのこと肌と脳裏に焼き付く。それを役得とばかり味わってしまった自分の下劣さに、更に謝罪を唱え続けるしかなくなる。のだが。                                                                    
                                            
                                                                            
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