.声も出ない。感情すら臭わない。吐息さえ擦り切れて、音にならない棒読みだけが垂れ流れていく。
(こんな孤島の大学をトップで卒業したところで学費も返ってきやしないし、勤め人としてだって給料や待遇が良くなるわけじゃない。帰国子女? だからなんだ。マイノリティにならざるをえなかった分、マイノリティな悩みが増えただけじゃないか。将来有望? そんなの俺だけじゃない。どこの世界だって、若手ってだけで将来は有望される。大人が子どもにあとは任せたって未来を丸投げすんのと同レベルの無責任な出任せに過ぎない。イケメン? そうなのかよ俺が知るかよ。ドクター? 今迄どんだけ医師免許が発行されてると思ってるんだ。合格人数に制限があるわけじゃなし。俺がその中のひとりだったからって、なんだって言うんだ―――)
「彼ったら優しいから、あんたみたいなのの愚痴にまで、いちいち付き合ってくれてたとは思うけど? そんなの、ただのお情けだから」
 小杉の高笑いに、坩堝のようだった自白が止まる。
 麻祈こそ、高笑いしかけたせいで。
 呑み込んだそれが、喉の根で煮立っていた。くつくつ、と。
(優しい? お情け? そうかもしれない。だとしても、“俺へのだ”)
 すべて、我が身可愛さから出た錆だ。小杉の妄想をほったらかし、坂田に余計な口を挟んだ挙句、佐藤の手まで煩わせておいて、“それでもそれをこうして陰からせせら笑える”! そうとも、これが現実だ!
 だからどうした? にたつくのも白けた。                                                                    
                                            
                                                                            
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