「―――あーあァ」
その呟きは、部外者が聞いてしまったことに後ろ暗さを覚えるような艶を刷いていた……
「どうしてくれるんです? 言っちゃって。わたしの方は、まだちっとも興奮してませんのに」
そして、葦呼が片手を浮かせて、肩の上にある麻祈の頬骨にかける。そのまま、自分の髪へと抱き寄せた。麻祈の首筋にぴったりと頬を寄せて、麻祈の頤の影でくすくすと笑う。陰徳も馨(かぐわ)しい艶美(えんび)が薫る。
「わたし以外に先生に熱を上げてる馬鹿を見せてくれるって約束したのに、これは約束違いじゃありません?」
「そ、う―――かな」
くすぐったそうに息を詰まらせる麻祈。
それを楽しんで、葦呼が微笑む。
「そうよ。サプライズが無いわ。期待ハズレ。ほら、どうしてくれるんです? せんせ」
言いながら、葦呼はもう一方の手で、腹にベルトのように回されている麻祈の腕に触れた。そのまま手首から手の甲、指先まで撫で上げて、五指を絡ませる。そして、そこから掌を連れ出した。腹部からくびれ、更には乳房。その動きをみるにつれ、幻聴が聞こえた。ほら、分かる? 女の子の身体を洗う時はこうするの―――
「ちょっとそこの。どうして欲しいって思った? それ、今度アンタらふたり並んで先生にご奉仕したらいかが? わたしの次点くらいには格上げして戴けるんじゃなくて?」
それは、こちらに問いかけて挑発するように見せかけながら、実は己の優越感を引き立たせるためだけにある高慢な口調。
答えを必要としていない問いに、返事をする必要はない。そんな理由でもないだろうが。小杉がしたのは、絶叫だった。
「い―――やあああぁぁあ!!」
ついで、自棄だった。
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