.紫乃は口を開いた。迷いが詰まって言葉が出なかった。
閉じようとした口を、もう一度開いた……詰まっている迷いを吐き出しすことなら、出来る気がしていた。
「あのさ。葦呼」
「うん?」
「こないだ、喫茶店の時」
「うん」
「葦呼が、最後、わたしと麻祈さんに『お似合いだ』って言ってたのを思い出して、」
「うん」
「あの時の葦呼が、その―――……我を忘れてる、みたいに見えて」
「……ふぅん」
「あのさ、―――」
惑うまま、目線を葦呼に合わせる。反応を見たかった―――正しくは、反応するのか確かめたかった。変化するかを。
「葦呼にとって、わたしと麻祈さんって、そういう相手なの?」
「どーゆー相手?」
葦呼は、やや首を傾げた。だけ。
聞き返されても、説明に窮する。
「どういう、って……」
まごついて言葉を手探りしながら、自分でもなにを探し当てたかったのかを見失う。もとより明確なビジョンがあって問いかけたのでもなかったから。
そういう相手? 葦呼と紫乃は友人だ。葦呼と麻祈も、友人―――同僚兼趣味友だったか?―――らしい。そしてそういった言い分が外聞でなければ、合コンに差し出したりしなかろう。
となると、尚更こんがらがってしまう。紫乃は眉を顰めた。
「じゃあ、なんで葦呼は、あんなに怒って、わたしと麻祈さんがお似合いだなんて言ったの?」
「あんたらがそっくりだから」
ちんぷんかんぷんだ。
としても、有耶無耶に承服するには無理がある話だ。抗弁する。
「全然そっくりじゃないよ」
「そっくりだよ」
「どこが?」
「自分ばっかりなとこ」
抗弁しようにも、今度は咄嗟に論拠が出ない。
その隙に、葦呼にせりふを継がれてしまう。
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