「そうやってスネて僻んでんのを分かって反省できるところが、イジケ虫の軽症さを物語ってるよねえ。あの王様は、こんなひとスジ縄じゃいかない。ぬるっと逃れる。ぜってぇぬるっと逃れやがる」
「どういうこと?」
「―――どうしたところで駄目ですよ。俺にははなから、どうしても駄目も無い。どれかがありさえすれば、坂田さんに責任を押し付けることも出来たでしょうけどね」
葦呼が、それを復唱する。
紫乃が理解したのは、そこまでだ。
葦呼にとっては、そうではなかった。
言ってくる。とんでもないことを。
「あの時に喫茶店で、アサキングはそう言った。紫乃。要はあいつ、あんたに負い目があるんだよ」
「は!?」
あまりの見解に、紫乃は度を失った。
意味不明だ。問答無用に理解不能で言語道断だ。もうそんな四字熟語の活用方法が正しいのかどうなのかも分からない。ただただ慌てふためきながら、矢継ぎ早に悲鳴を送り出す。
「なんで!? どこが!? やめてよ、なんでわたしなんかに!」
「ほれソックリ。アサキングのせりふからキングっぽい回りクド味を抜けば、そういうこった」
「どぉいうこった!?」
「紫乃」
静かに、葦呼が呼びかけてくる。
「それ、ききたい相手、あたしでいいの?」
返事が出なかった。少なくとも、その時は。
過去に答えていた問いかけに、今はたたらを踏まずにおれない。
―――その隙に、葦呼が息を吐いた。清(す)んでいたはずの眼光は、吐き出された倦怠で、わずかに曇っている。
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