.ざっと三十はありそうなそれを、ぱらぱらと検分していく。大きさの大小のみならず、色合いも白黒ガリ版からフルカラーまでごちゃ混ぜに、封書からチラシまで揃い踏みだ。送り主も実に様々である。眼鏡店の新規オープンフェア―――親鸞聖人の説法会―――街中コンパ・どうですか?―――スマホ乗り換え・今だけ割―――エアメールさえ挟まっていた。ぼそぼそした手触りからして外来品だと丸わかりの絵葉書に、漢字が書いてあるのが、ものすごくミスマッチ……
(って。漢字?)
違和感に、次へと進んでいた動作を巻き戻して、絵葉書に戻る。眺めると、裏面はどこぞの外国の市街と思われる風景写真で、添えられた筆記体も英語だった。型崩れした走り書きで判読できないが、漢字は見当たらない。
(あ。そっか。宛名が漢字なのね。佐藤葦呼って。そりゃそうか)
なんの気なく、絵葉書を裏返す。
段麻祈。その差出人を見つけた。
指が攣る。ぎくりと硬直して、眼球さえ微動だに出来なくなる。
口だけが、現実を誤魔化そうとした。
「消印、は? 古い? っていうか。読め、ない?」
「なんで疑問系?」
「別に別に別に?」
ふるふると首を横振りして、不意打ちされたショックと動揺をひた隠しにする。失敗したのは明らかだったと自分でも思えたが、そもそも葦呼はこちらを見ていなかった。水揚げされた昆布のようにぐでっと丸めていた上半身を、倒れ込んだ時の逆再生をするように伸ばしてみせる。だけでなく、立ち上がった。のたのたと、かなり頼りない足取りで。
目やにを掻いている葦呼の双眸が糸のように細まっているのは、立ち居を変えたせいで窓辺の陽光が眩しく思えるようになったせいだ。それに、不審そうに下を見やったのも、立ったはずみで足の甲に座布団を引っかけてしまったせいだ。せいなのだが、それらを知ってもなお、紫乃は絵葉書を他の紙束の中に混ぜ込んだ。
そんなことを仕出かしたことすら紛らわせてしまうべく、どうでもいいことを問い詰める。
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