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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. 紫乃もまた、私室の中へと戻った。電気をつけて、とりあえず、基礎化粧品を顔に塗る。それから、ベッドの上に散乱していた服や小物を、学習机とその座席の上に移した……よそ行きの服だけはクローゼットにすべて掛け直したが、残されたあれこれの片付けは、明日へ回して良かろう。合コンから持って帰ってきたまま床に放り出していた鞄、そのフリルまみれの腹を掴み―――

 くしゃ、と異様な感触を握り潰して。それを黙殺できず、紫乃は鞄の留め金を開いた。

 中身は、いつも通りである。ティッシュ。携帯電話。あぶら取り紙。最近はどこの店のトイレにも紙ナプキンが置いてあるので、ハンカチは持って歩かなくなった。その身代わりのように、一枚のレシート。

(あ)

 忘れていた。

.

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. 父・姉・紫乃の自家用車が並ぶ自宅の駐車スペースは手狭なため―――都会では一台も車がなくても平気らしいが公共交通が貧しい地方では通勤の足は自分で賄うのが道理だ―――、玄関前で紫乃は降車させられた。バックして定位置に入っていく乗用車を涙目で怨みがましく見詰めるが、続いて降りてくるであろう地獄の獄卒(=運転手)自身にそうする心機は惨殺されていたので、彼女の姿を直視するというとどめを待たずに、ずるずると足を引きずって玄関に入る。

.

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「根っから、あんたに合わせてくれてんじゃないの」

「え?」

「行き先が一緒なだけ。それを装った以上、それ以外のアクションを取れば気取られる。だから、ただ黙々とあんたとエア二人三脚しながら、あんたの状態を見極めて、無理が来ないように合わせてくれたんじゃんよ。あんた、さぞかし、のほほんとついてこれたでしょうね。その人から恩着せがましいこともされちゃいないし、自ら恩に着なきゃならないようなこともされちゃいないんだから。主観的には」

 一拍。

 ばっと紫乃は座席シートから身を起こした。あわわわ、と片手を口許に突っ込みながら、青い顔を押さえて、もう片手で鞄の中を探る。

.

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「……あんた、やっぱあの人に駅まで送ってもらったんだわ」

「ええ?」

 面食らって、紫乃の声が裏返った。

「そんなの困るよ。わたし、そりゃ、店から出て、あの人についてったけど。それは、駅までの細かい道順が不安だったからで、だからこそわたし、こそこそしてたし―――大通りにさえ出れたら、ひとりでそれからロータリーまでいける自信あったから、ちょっとそこまで目印になって欲しかっただけで。送ってもらうなんて、そんな、その人にだって予定あるのに、邪魔できないよ」

「だからわざわざその人、行き先が駅だなんて言ってくれたんでしょ」

「え? え?」

.

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「ううん。行き先がおんなじだっただけ」

「ふーん。合コンで酒飲まない野郎なんて珍しいね」

「え?」

 本格的に意識を取り戻して、疑りながら、振り返らざるを得ない。現実的には隣席の姉をだが、心の中では、憶えている麻祈を。

 とするとやはり、そう言うしかない。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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