「坂田さん。……今回は、本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
(なんでですか?)
呆けたまま、紫乃は度を失った。
謝罪半ばに上背を折り、声を遂げてから上背を正した麻祈の瞳は、ただただ沈静して、贖うべき罪を無気力に受け入れていた。
(麻祈さんは、合コンに出ただけじゃないですか)
それは罪なのか?
(わたしに気付いてくれただけじゃないですか)
それが罪なのか?
(追いつくまで待ってくれていたじゃないですか。泣くことさえ忘れていたのに、辛いのも悲しいのも見つけてくれたじゃないですか。それを―――)
迷惑事であったと悔いている。
そうしたことが申し訳なかったと打ち拉がれている。
(やめてください。やめて、ください……)
そんなことをしては駄目だ。彼が、そんなことをするのは。
それを伝えなければならない―――紫乃だから、麻祈にそれを伝えないと。紫乃だから。
(わたしなんかが?)
そこにある恐怖に気付いて、紫乃は震え上がった。怯えて、舌を枯らし、失禁する直前のように生温い寒気が背骨の下を伝うのを感じていた。分かりたくなかった。“ひょっとして、彼が言う通りなのかもしれないと思えてくるなんて”!
こんな自分だ。彼へ顔を上げるのにさえ、勇気を枯らす。
「―――麻祈、さ、ん」
こんな自分だ。彼に呼びかけるだけで声が震える。
「わたし、とっても嬉しかったんです」
こんな自分だから。走り出してしまったら、せりふさえ思いとどまれない。
[0回]
PR