「悲劇? だったかもしれない。ひとりは死んで、もうひとりは生き残ったから。だけど、それだけじゃない。メシ食えば旨い、人といれば温い、だけじゃない、―――ここに、生き残ったんだから」
吐息さえ絡む瀬戸際から佐藤によって吸わされる言葉は、まるで乳のように血の味がする。そんな血迷った倒錯が、乳飲み子のように白んでいる頭では、なぜか相応しいと―――そう思えた。
「お前の世界に、誰かは、いるか?」
麻祈は、答えることが出来なかった。問われていることしか分からなかったのだ。本当に。質問に、追いつけない。
いる? それは、必要なのかという意味か? 存在するかという意味だろうか?
いつだってこうだ。こうしていつも、相手に誠実で在ろうと思えば思うほど、擦れ違いは無様さを増して嵩を肥やす。だからこそ、そうやって無意識にチャンネルを切っている―――
それでも、無理矢理アクセスしてくる奴へは相手をするんだから。
(―――佐藤、佐藤! てめえ―――この……!)
不意に橋元のせりふと、ことのからくりがリンクした。偶然だ。奇遇だ。奇跡か? ファックだ、神の野郎。仕組みやがって。
(無理矢理アクセスする発破と、無理矢理アクセスしてしまった言い訳と、アクセスした内容を無理矢理にでも忘れるべく……“まあいいか酔っ払いだし”と俺に見くびらせるべく、こんなお膳立てしやがったな!)
ああ確かにそれは、即効性を第一とした場合、最も的確な逆療法だとも―――癪に障らない程度の馬鹿は、憐れまれるものなのだから!
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