.とん、とん―――と、片手の人差し指で己の膝頭をノックしつつ、麻祈はそれを夢想する。彼女はどのように物思うのだろう。絶対に分かり合えないもの同士が、絶対的に分かり合おうとする悲劇について。あるいは、悲劇だと論じた麻祈について。
ふとした思いつきに、彼は指先を拳にしまった。なんだってんだ、ありえないだろう、この自分の仕草は。まるで、西部劇でガンマンに接する保安官じゃないか。下らない保身のため、虚栄を張った威嚇をせずにいられない、憐れましい老いぼれ―――
イメージを振り切るように、麻祈は淡々と指摘を続けた。
「人間に、絶対なんて在り得ない。百パーセントなんてものは存在しない。在るならば、それは人にそっくりな怪物だ。怪物同士が分かり合おうとする? そりゃ共食いだろう。だったら、食い合って両方消え去るしかない―――絶対なんだから。なのに、なぜ片方だけ生き残った?」
「てっこつもイエモトも、てっこつでもイエモトでもなかったから」
「……―――は?」
麻祈が聞き返し、振り返るまでの絶妙の空隙に、佐藤は眠ってしまっていた。
(鉄骨の家? 『カワヅ』って、そんな建築の話だったっけ? もっとグズグズねちねちしたスネ講話っぽくなかったか? 寓話にかこつけた感じの。……珍しいな、あんまし覚えてねぇや。俺のくせに。どんだけナナメ読みしたんだか)
麻祈は、佐藤を挟んで向こう側の窓から、外を眺めた。と言っても、見どころなんてありはしない。家はあったが、鉄骨かどうか見分けるすべもない。
夜景は、安価なタクシーの狭苦しい窓に切り取られているのがよく似合う、わびしい存在に満ちている。褪色した街並み、日に焼けて肌荒れした看板、空き地で土下座した枯れ草、皺を入れっぱなしのアスファルト。同じものを写し続けたフィルムが焼けつくように、地方都市は手垢のように染みついた時間でくすんでいる。
思えば、前に佐藤とお開きした時も、同じようなことを考えていた。
だから今回は違う考えに飛びついてみようなんて、天の邪鬼を気取ったわけではないが。
自暴自棄にしては、悪くない。佐藤を横目に、そう思えたので、麻祈は独りごちた。
「……探してみるか。ジェイヤー」
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