.目をぱちくりさせて、そうして一度は見開いた双眸を、今度は前以上に細める。怪訝そうに、訊き返してきた。
「ごはん?」
途端に、怒涛のように押し寄せてきた後悔と恐慌に頭が白んで、なんの言葉も出ない。
きっと嘘だと見抜かれた。だから次の瞬間から、心の底から軽蔑される。それを少しでも軽減させるには、どうしたら―――
「ごはん。それ、ディナーって意味ですよね? この場合。ライスでなく」
「は―――い、そうです」
呑んでいた固唾は、吐き出してしまうと体のいい相槌に収まった。
その安堵感に虫唾が走る。逃げ切れたのだと確信できた途端に後悔し出した卑しさに、思わず俯いてしまう。
麻祈は、紫乃のそれを見るでもなかった。視線を横流しして、ぽつりと呻く。
「……明日まで保つかな……」
そして彼は、サンダルの入った紙袋を床に置くと、ずっと握っていた靴下をのそのそと履いた。そうしてぐずっていることに自分でも嫌気が差したようで、嘆息で区切りをつけると、すぐに動き出した……冷蔵庫へと、歩み寄る。
紫乃は、そっとその背中についていった。彼の注意を引かせたものに興味がわいたのだ。無視されていると感じたのではなく。
麻祈は、なんの準備か両手をこすり合わせてから、しゃがみ込んで保冷庫を開けた。中を見て、やはりひとりごちる。
「グレーゾーンすぎる。白黒つかない」
「ぶえっ!?」
麻祈越しに紫乃も保冷庫の中を覗き見て、見てしまったからには噴き出すしかなかった。
缶飲料はどうでもいいし、チーズや調味料のようなパッケージも別にいい。見覚えのある米焼酎の蒼い瓶は格別にいい。歯ブラシが棚に寝てるのはなんでなのか、尋ねる気はとりあえず無い。歯ブラシは歯ブラシだ。見れば分かる。見ても分からないし、もう見たくないものは―――
それを曖昧に指差して(見たくないので目を逸らしていた)、紫乃は悲鳴を上げた。
「なんですかソレッ!?」
「なにって」
振り向いてきていた麻祈が、紫乃と真逆に沈静した様子で告げる。
「切断したキュウリとニンジンをコップに立ててラップした状態ですよ。いわゆる野菜スティック」
「しけったフライドポテトか夏休み明けの学校の窓辺にある鉢植えレベルに総員お辞儀してますけどっ!?」
「していたとしても、野菜スティックです」
と、言い切って保冷庫を閉めた。立ちあがる。
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