「ど、どうして外に出たんですかっ!?」
「どうしてって。日本の呼び鈴が鳴ったもので」
「そんな格好でっ!?」
「まあそれは、日本の呼び鈴でしたから」
「なに言ってるんですかっ!?」
「そちらこそ」
こちらとしては真っ当に答えているつもりなのに、坂田は声色からして、毛ほども発奮を収めてくれる気配がない……となると、恐らく、また自分は食い違ったことを喋ってしまっているのだろう。日本語で返答するよりも、半裸の上背にばら撒かれた傷跡をミリ平方単位でも広く隠すべく首のタオルと格闘していたせいもあるだろうが、大体は昔からこうなのだ。大学で合コンした時も、男仲間の「あの女の子センスある服してるよな」というコメントに「ナイスジョーク」と大ウケして総スカンを食らった。しかし、あれは不可抗力だ。真冬だというのに真夏のような露出度の薄着を選択した女性を“分別(sense)ある服してる”と評するなど、皮肉を利かせた冷やかし以外の何物でもないではないか―――
「とにかく、なにか着て来てくださいっ!」
しょげかえりかけたところで坂田の発破を食らい、麻祈はどうにか意識を取り戻した。とはいえ、疲労が膿み切った脳では、上手い相槌も思い浮かばない。内容どうこうでなく一方的にがなり立てられていることそのものに思うところもあったけれども、言い返すなどとんでもない。となると、ごにょごにょとお茶を濁すしかない。
「……そりゃハイへい(Sure,sure,fo' sho )……」
言い逃れつつ、身体もワンルームへと逃げ込む。
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