.そうしてエアコンの涼気に全身を突っ込んだ効果か、洗面台に上半身の服一式を置いてきたことをはっと思い出したが、このままで取りに戻ると坂田から倍加した怒鳴り声をぶっかけられそうだ。幸いにして、服は予備があるのだから、そちらを着るべきだろう。フローリングに放置された洗濯籠―――という代名詞の手持ち穴開き段ボール箱―――には、サンルームから取り込んで以来ほったらかしにされた衣類がてんこもりだ。そこに向けて、しゃがみ込む。
(ええと。どれだ。上の服)
色合いから肌着だと思しきものを箱から引きずり出すと、つられてスウェットシャツと右足の靴下がこぼれた。とりあえずフェイスタオルを適当に放り出して、上着一式に袖を通してから、左足の分の靴下を発掘しにかかる。
と。
「うひょええええぇぇぇっ!?」
裏返っていないのがマシなだけの悲鳴に後ろ頭から劈かれて、今度は何だと辟易しながらも、麻祈は振り返った。すぐ後ろ、ドアの手前で、クッションのように鞄を抱きしめた坂田がこちらを見て大口を開けている。背を向けていたので気付かなかったが、どうやら勝手に玄関から室内へ入ってきたらしい。
(えー? そこまで約束してたのかよ俺ぇー。ウチに上げる約束してたのかよー。それまでにこの部屋片付けとくつもりだったのかよー。ねーよ。記憶ねーよ)
己の間抜けさを倦怠する暇もなく、またしても坂田の大声に意識をひっぱたかれた。大声だったことは理解していた。なんですかそれ! ―――そう問われていると、それも理解していた。ので、こたえる。
「いれもの(Basket)」
坂田が固化した。
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