「開けましておめでとうござりましたキング。早朝から空は薄雲を帯び、夕刻の雅(みやび)を心に再燃させるような紫紺の色を呈しておりますが、それは我々の心模様を写してのことではないでしょうか。それについて、わたしは反論するための確たる証拠を有しません」
「……要するに、なんか気がかりなことがあるせいで、曇り空が一層にどんよりと重苦しいって言いたいんだな? 佐藤。
ああ。それと、はいはい。あけましておめでとう。電話向こうからペコリ。今年もヨロシクお願いいたします」
「こちらこそよろしゅうネンゴロにドウゾ。ぺこり。
ってのはいいとして、助言が欲しいんだけど。アサキング、時間いい?」
「んだよ、暗いな佐藤。明るくなるコツは、どんなベクトルでもいいから、とにかく発奮してみることだぞ。死体の腸で縄跳びしてた変態ヤバ医の話は知ってるか?」
「
それ聞いて発奮したら あたしが変態女医だろが。 ―――初夢を見たんだけどさぁ。あたし、ベビー服を着た息子(新生児)を抱いてるわけよ」
「服着てんのにオスだって分かったのか」
「うん」
「エスパーか」
「エスパーだったかもね。
でまあ、その息子、あたしにこれっぽっちも似てないわけさ。髪の毛も目の色も真っ黒だし、直毛っぽいし、二重まぶたの切れ込み具合も攻撃的な斜度してるし。
しかも、泣き止んだ直後だったのか、見た目が赤いわ黒いわどことなく腫れてるわで
うへぇマジ肝臓だぁと思っちゃって。
あたし思わず『キモチわるっ』って呟いちゃったんだけど」
「思わずじゃねーと出てこないストライクなツイートだな」
「そしたら、赤ん坊が
『きもちわる』ってオウム返しに言ってきた」
「新生児が!?」
「息子が産まれて初めて発した言葉が『きもちわる』、だと!?
と、ショックを受けたあたしは、またしても思わず『うわ。トラウマる。まじトラウマるわー』と、トラウマを動詞変換までしてしまい……」
「……まさか息子から、『こっちこそトラウマるわ』って直球でツッコみ返されたのか?」
「いや。
『ぼく、虎生丸(とらうまる)』って名前認識されて」
「変化球!?」
「名前にしてまで生涯この記憶を抱えていく覚悟だってぇのマイ・サン!? 『虎生丸、とらうーまる』って息子はぶつぶつ言ってるし、これ以上なにか言おうものなら、またしても余計な事態を引き起こしそうで黙ってたら、」
「そのブツブツが偶然にも悪魔召喚の詠唱となり悪夢の権化たるサタンが降臨―――」
「いや。目が覚めた。だけ」
「あ。三段オチじゃないんだ。日本人って3大モノが好きだから、三つ目くるかと思った」
「あたし、息子をどうすべきだったのかなー? 砕氷船みたいでカッケェ名前だぜ虎生丸、この世界の荒波という荒波をアイスごとブレイクだぜアイスブレイカー虎生丸、とかフォロー言うべきだったのかなー? アサキングどう思う?」
「……俺だったら?」
「うん」
「そーだなぁ」
「うん」
「
『丸』は おまる(日本式小児用便座)の意だと教えてやって、虎生丸がどーいった顔をするか観察したい―――」
「ってコラこのヤローウ」
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