.そのことを、気付かれてはならない。大型書店の白すぎる屋外灯に照らし出された麻祈の顔は、その眩さを鬱陶しがるのとは別の意味で、しかめっ面となっているのだから、その渋さを強めるようなことは出来ない。ましてや、もっとはっきりと、嫌悪などよぎらせてしまうようなことになったら―――
その閃きを跳ねのけるように、紫乃はばっと右手を挙げた。きっぱりと、麻祈に向かって発言する。
「やっぱり歩いて帰ります!」
「は?」
怪訝そうに深まりゆく、眉間の皺。
それをとにかく見たくなかった―――見るほど、行く末まで見通せる気がした。渋面が。
「もう雨ほとんど止んでるし、わたし歩くの好きですから! じゃあ!」
言い張る声半ばに、紫乃は麻祈から顔を背けた。
次いで、肩、腰、きびすと反転させていく。どれかで もつれて転んだりしないか気にしていたせいで、まっすぐ挙上した手を引っ込め損ねてしまった。が、大丈夫―――それは、歩き出して転倒しないと目星がついた頃に仕舞っても、充分に間に合う……
小雨がぱらつく駐車場に、軒下から踏み出す。そのアスファルトは歩道に繋がり、歩けば自宅まで繋がっている。ならばそこまで、歩いて行ける。そう思った。
またしても、思っていただけだった。
挙げたままでいた右腕の服の袖がつっぱって、前に進めなくなる。背後のなにかに引っ掛かったらしい。なにに?
振り返る直前、その右手の中に、硬い感触が押しつけられた。細くて長い。棒だ。
思わずそれを握り返して、肩越しに振り返る。麻祈が、紫乃の右袖をつまんでいた。
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