「ど、こ、いくの?」
「トイレぇ」
言葉通り、葦呼はふらふらと居間から迷い出て行った。トイレはキッチンの横にある。ちゃんとドアも閉めていった。
となると、居間には自分だけだ。
更なる上には、この手中に、この絵葉書があるのも今だけだ。
(見るだけ。見るだけだから。とりあえず見るだけだから)
唱える。
内心で、念仏のようにそう唱える。
のだが、絵葉書の裏を見て、どうにかUSA(ユー・エス・エー)とPrinceton(プリンストン)だけは読み取って、そうして遠回りしてみたもののやっぱり表に引っ繰り返して、そこに書かれた段麻祈の字をもう一度見て―――英語と打って変わってカタコト感が残る字だ―――しかもその横に日本の住所が書かれているのまで見てしまった途端、暗誦する語句がその住所にすげ替わる。
さっと他の紙束をまとめ、知らん顔して卓袱台の端に寄せる。葦呼の姿はまだ見えないが、胸の鼓動はカウントダウンのタイマーのように時を数え始めていた。
それを無視できない。心音が、早鐘として警鐘を鳴らしていると―――そう感じるし、危機感も募る。のだが。
手は、ショルダーバッグから携帯電話を取り出している。
指先は、インターネットにアクセスして、地図検索欄に住所を入力している。
目は、画面が検索中の印を燈すのを待ち侘びている。
(今のわたし、やばいよ。やばい……)
燈し終えた。
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